骨と関節について知ろう

“暮しと健康相談室” 乳児の臼蓋形成不全

Q.臼蓋形成不全でバンドによる治療をすすめられたが

生後七か月の娘のことで相談します。生まれて三か月の股関節脱臼健診の際、臼蓋形成不全がエックス線写真で認められました。しばらく様子を見ることになり七か月になって再び検査したところ、前回と関節の角度が変わっていなかったためバンドによる治療をすることになりました。この治療についてですが、七か月目からの治療でも効果はあるのでしょうか。また、脱臼も亜脱臼もしていないのにバンドは必要でしょうか。盛んに動く時期にもなっているので自然な運動では治らないのかについても知りたいところです。ご教示をお願いします。

A.脱臼も亜脱臼もないことが確認できれば、必要ない。

ご質問にある疑問は至極もっともと思います。バンド(正式にはリーメンビューゲルといいます)はそもそも乳児の先天性股関節脱臼の治療に使うものです。脱臼と臼蓋形成不全とでは月とスッポンほどの違いがあると思って下さい。脱臼は文字どおり、股関節がちゃんとはまってない状態であり、放置しておくと歩行に大きな障害をきたしますので、なるべく早く整復(ちゃんとはまった状態にする)しなければなりません。生後3ヶ月以降から歩行開始までの間、脱臼の整復に用いられるのがいわゆるバンドです。

一方、臼蓋形成不全はエックス線写真上だけの診断で、股関節をつくっている骨盤側の凹み(これを臼蓋といいます)が浅くて急な状態をいいます。股関節はこの臼蓋とそこにはまっている大腿骨頭(大腿骨のいちばん上の球状の部分)とが互いに影響しあって発育していきます。臼蓋がうまく発育していくためには、臼蓋の中央に大腿骨頭がきちんとおさまっていてくれることが大事なのです。
中央にきちんとはまっている状態では、臼蓋と大腿骨頭はお互いに良い影響を与えあって成長していきますが、少しずれている状態ではまっている時(亜脱臼)や、はずれてしまっている(脱臼)と悪い影響を与えあってしまい、うまく成長しないのです。従って、赤ちゃんの臼蓋形成不全の治療は、“臼蓋の中央に大腿骨頭がきちんとはまっている状態を保つことにある”といえます。逆に、きちんとはまっている股関節であれば、臼蓋形成不全であっても特別な治療をする必要はないことになります。御質問に“脱臼も亜脱臼もしていないのにバンドが必要なのか”とありますが、脱臼も亜脱臼もしていないということは、臼蓋の中央に大腿骨頭がきちんとはまっているということですから、回答は“必要ありません”となります。

脱臼してない赤ちゃんにもバンドを使用することがあります。開排制限といって、おむつ交換の時に赤ちゃんの股がよく開かない状態があって、亜脱臼が疑われる場合です。この時には開排制限がとれるまで、短期間バンドをつけることがあります。しかし、エックス線上の臼蓋形成不全だけでバンドをつけるということは行っていません。臼蓋形成不全のみの股関節にバンドを装着することによって効果があるという証拠がないからです。
むしろ、バンドをつけることによって大腿骨頭の血のめぐりが悪くなって、骨頭の変形が起きることもあるので、装着しない方が良いでしょう。

御質問の娘さんの場合は、脱臼も亜脱臼もないことを確認したうえで、どうぞ自由にさせてあげて下さい。
股関節を無理にまっすぐにしたり、窮屈な衣服を着せて股関節の自然な動きを妨げたりしないよう注意しましょう。
あとは、半年に1回程度のエックス線による経過観察を受けて下さい。

暮らしと健康(保険同人社) 2003年9月号に掲載